寒冷時における航空用レシプロエンジンの取り扱いに際しての注意点
去る10月17日はデンバーにおける今年の初雪日でした。これからは低温環境における訓練が可能な日が多くなります。「冬は冬らしく」が訓練に必要、と主張している立場からも、より気合いの入る季節になりました。 冬に冬の訓練をしなくて、いつ冬期訓練をするのでしょうか?
低温時の訓練に関しては、幾つかの注意点を挙げることが出来ますが、今回は特に、コンチネンタルやライカミングなどの、航空機用レシプロエンジンの低温時の取り扱いに関して、2点ほど取り上げてみたいと思います。
まず、寒冷時のエンジン始動に際しては充分な暖機が必要です。当地では、プロパンガスの燃焼による排熱を、電動ファンでエンジンのカウリング内に送り込むことで暖機を行っています。暖機のお陰で早朝や夜間の凍えるような気温に比較して、エンジン本体の温度が上昇し、キャブレター等でのガソリン気化も良好になり、始動性が劇的に改善されます。
ポイントとしては、十分に暖機が済んだ証として、エンジンカウリング下部に突き出しているブローバイ管(エンジンのクランク室内の圧力を逃がす管)からの、水滴落下を視認することです。すなわち、ブローバイ管内で凍結した水分が解けたことを意味するのです。燃焼の副産物としての水蒸気分は相当の量であることと、ピストン周囲の圧縮リングの隙間をすり抜けた未燃焼ガスに含まれる水蒸気分が、大量にクランク室内に存在することは、エンジン停止直後にブローバイ管から落下する水滴量でも窺うことが出来ます。そのブローバイ管を凍結させたまま、かろうじてエンジン始動は成功したものの、急激に上昇したクランクケース内圧力によって、エンジンの損傷に至った実例も報告されています。
ついでですが、実は、あの機体腹部のオイル汚れも、あのブローバイ管が犯人なのでした。しかし、それは管が通気している証拠であり、通気と同時にクランク室内の圧力を正常に保っている印でもある訳です。しかし、余りにも多量なオイル噴出しはエンジンの圧縮性能の低下(シリンダーの圧力リングの性能劣化)を疑うべきでしょう。自動車では義務付けられているブローバイガス還元装置が付いていないということで、環境にはやさしくないのは言うまでもありません。
次の心配はエンジンが急速に冷却された為に起きる"サーマルショック"に関してです。これは冬期に限ったことではないのですが、エンジン出力を急激に過大に減ずる必要に陥るような計画性の無い飛行を行った結果として起きうることです。具体的な症例としては、シリンダーヘッドに亀裂が入ってしまい、そのエンジンはもう使用できません。空港に帰還する際に、対地高度が高過ぎて短時間にあわてて降下しようとすることが頻繁に起きる落とし穴となります。フラップの強度に関して脆弱だと言われている高級な設計のフラップを装着しているセスナ機でも、実は、第一段階の低角度フラップ設定で"巡航降下"が可能であり、それを選択することは裏技の一つとして可能です。
しかし、いかなる場合にも、機体に不必要なストレスを掛けること無しに運航できる深い洞察力を持ったパイロットになることが我々のゴールです。
つまり、エンジン出力設定を極端に低下させること無く、エンジン本体温度を急激に低下させることなく、直陸地への降下横断面を無理なく実現することを、知識として習慣として身に付けることです。スポーツに例えるならば、ペース配分が自然と出来るようになること、とでも言うのでしょうか。持久系の運動をしている時の心臓や筋肉のように、航空機のエンジンを気遣うことが出来るようになれば、クレバーなパイロットへと一つ階段を上ったといえるでしょう。
確かに、昨今の電子制御化された自動車用エンジンと比べれば、ライカミングやコンチネンタル等の航空用エンジンは、手間もかかり、気も使うのは事実です。しかしながら、正しい運用知識と、それに裏付けされた感受性を身に付けるという意味においては、とても優れていると思いますし、養うことの可能な運用知識に裏付けされた感受性も、パイロットに必要な要素だと考えるのです。そして、ライカミングやコンチネンタル等の航空用レシプロエンジンは、その扱いが優しければ、素晴らしく信頼性の高い内燃機関であることは、言うまでもありません。
上記のような注意点のほかにも、冬期における特殊性はいろいろと存在します。外は少々寒いのですが、暖房の効く機内ですから、ひとたび飛んでしまえば、真夏よりも快適かもしれません。常夏や常春の地域とは違い、また夏のコロラドとも違うコロラドの冬空を味わいに、ブラッシュアップ訓練もかねて訪れるのも大歓迎です。限りなく蒼く澄んだ空と雪を頂いた白いロッキー山脈も、訪れる人や飛ぶ人を歓迎するのが、これからのコロラドです。
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