低圧チャンバー(減圧室)での体験談

Mt.Evansの話で高地ゆえの気圧の低さや酸欠について触れたので、今回は今から四半世紀と1年も前の1980年の夏に、コロラドスプリングスのピーターソン空軍基地で体験した、減圧室の話を思い出してみたい。

コロラドスプリングスと言えば、アメリカ空軍士官学校や、ブラックフォーレスト滑空場のあった場所でもある。そんなコロラドスプリングスにあるピーターソン空軍基地で、民間人を対象にした減圧チャンバー内の酸欠体験の1日コースが催されると聞き、参加したのだった。

デンバーからハイウェイを飛ばして現地に着くと、そこには十数人の民間人が未知の体験を直前にし、少々緊張気味な顔で座学が始まるのを待っていた。その日の日程は、午前中に体験コースの概要と基礎的な航空医学の講義を受け、午後から減圧チャンバーの中での体験だったと記憶している。昼食を挟んでの体験の為、昼食では豆類や炭酸飲料の摂取は、極力避けるようにとの注意があったことを覚えている。

昼食を済まし、いよいよ減圧室での酸欠体験に望むことになった。待ちに待った、その低圧チャンバーと対面した印象は、超小型の潜水艦のように思えた。閉所恐怖症の方にはちょっとお奨めできない感じと言えば伝わるだろうか。その低圧チャンバーの艦内(?)に我々受験者は5人ずつが対面するかたちで着座し、両エンドにはドクターが一人ずつ監視の為に着座し、酸欠体験は始まった。

民間人対象ということで、軍人対象の基準値よりかなりマイルドな、24,000フィートの高度相当の圧力環境から、体験は始まることとなった。対面する片方がマスクを外し、簡単な筆記試験を始め、その被験者の解答速度と解答能力を、対面する片方がマスクを付けたまま観察するのだ。かなり簡単な内容の質問だが、そこは酸欠の環境であるが故に、なかなか解答できない。その様は、傍観している自分にとっても、酸欠状態のもたらす悲劇を簡単に予見できた気がした。案の定、自分がマスクをはずして問題にチャレンジすると、5分ほどで明らかにおかしくなったのだ。

基本的な低圧体験に続くのは、急激な減圧環境下の体験、酸欠状態下での視力低下の体験と、かなり盛り沢山な内容であった。特に役に立つと思ったのは、「酸欠状況下での夜間視力低下体験」であろう。マスクを外し、酸欠状態で低圧チャンバー内の照明が徐々に暗くなっていくにつれ、いとも簡単にその視力を失っている自分に気付かされるのだ。夜間と言わず、高高度で照度の低い環境(例えば雲底にかなり接近しているとか)には充分な注意が必要なことが、知識だけでなく実感として理解できた瞬間だった。

その後は、空間感覚失調に関する追加体験をして、無事にお開きとなったわけだが、かなり充実した有意義な1日に、とても満足したのだった。

高高度を飛行する人のためにも、日本国内の米軍基地や自衛隊基地で、この種の減圧室での体験が、容易に出来るようになればと思う。しかし減圧室はとても高価で、施設の数が限られているので、なかなか体験するのは難しいと聞く。低酸素症をシミュレートするパイロット向け訓練マスクと言ったテクノロジーの進歩に期待して、空を飛ぶより多くの人が、高高度環境についての体験を通して理解を深め、安全につなげて欲しいものだ。

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