ミクスチャーは混合気の空燃比を設定する
レシプロエンジン搭載の小型飛行機に乗ったことのない方のために、ごく簡単に説明させてもらえば、機内に乗り込んで操縦装置を眺めて眼に飛び込んでくるのが、黒いスロットルレバー(ノブ)の右隣にある真っ赤な目立つレバーだろう。赤く塗られているのはミクスチャーコントロールと言い、空気密度の変化(飛行高度の変化)に応じて、エンジンに送り込む空気と燃料の混合比(空燃比)を設定する為に装備されている。
エンジンに送り込む混合気の比率を調整すると言う意味で、スロットルとともに非常に重要な役割を持つミクスチャーコントロールなのだが、免許取得まで(或いは、取得後も)エンジン停止させる以外の目的で操作したことの無い人がいるのも、現実である。
コロラド州の西部と中部は海抜高度が高いので、海抜高度の低い訓練地と比較し、訓練内容で特に目立つ違いは、ミクスチャーの設定なのかもしれない。当地コロラドでは、エンジンのスタート直後から混合気を薄くしてやらないと、海抜高度の高さゆえの空気密度の低さにより、相対的に燃料の比率が高くなり、その結果として混合気が濃くなるので、スパークプラグがカブり気味になってしまう。アメリカの東部、南部や西海岸など、他州からやってきたパイロット達が、時々空港関係者を楽しませてくれる(?)エンターティナーと化すこともある。混合気の空燃比設定が教科書の知識としてあっても、実際にそれを体験したことが無い故に、混合気を薄くすること無しに離陸しようとするからだ。結果、エンジン不調で離陸断念。それを何回か繰り返した時点で、我々が彼らの再教育に駐機場まで出向くことが、今でも年に数回はある。
また、混合気は薄くすると共に、高高度からの帰還時には逆に濃くすることを頻繁に忘れがちでもあり、それは時にかなり危険な結果を招いてしまう。起き得る最悪のタイミングはゴーアラウンド時だろう。スロットルをフルにし、エンジンの最大出力を取り出そうとした瞬間に、混合気が薄すぎて瞬時にエンジンが停止してしまうという、まさに悪夢のような事態を招きかねないからだ。
自動車のように自動で混合気の空燃比が設定され、操縦者がそれを気にしないで飛行できるような新世代のエンジンも、小型機の世界では増えてきているようだが、現実的には、特に小型航空機の世界においては、伝統的な技術によるエンジンが圧倒的多数で使用されていて、そういったエンジンを理解して飛ぶことが、小型機のパイロットには必要だと考えているのだが、古い考えなのだろうか。
参考文献として、Lycoming-Textron社のサイトにあるEngine Operation Tipsを参照して欲しい。
Engine Operation Tips,“Experts” Are Everywhere to Help You / SSP 700A (pdf形式)
英文を読むのは面倒だと感じても、グラフはぜひとも見て欲しい。ベストパワーレンジやピークEGT(ベストエコノミー)、ピークEGTのリーン側の急激な燃焼温度低下や馬力低下が読み取れると思う。
間違って操作すればエンジンを止めてしまう恐怖感から、経験不足のパイロットは、ミクスチャーをイジって混合気の空燃比設定を変えたがらないようにも思うのだが、それは高高度を飛ぶパイロットだけでなく、通常の飛行時でも非常に重要な事項なのだ。
安全運航は正確な知識と実際の運用体験の蓄積から得られる。練習、練習、また練習と。