2006年06月28日

Mt.Evansに登ろう!

デンバー市街地の約50Km西に、Mt.Evans(マウントエバンス)がある。海抜標高が14,264 feet(4350m)もある山だが、その一つの売りは何と言っても、車で頂上直下まで登れることだろう。山頂直下まで行くことの出来るMount Evans Scenic Bywayは、北米大陸で最も標高の高い舗装路であるとのことで、山頂直下の駐車場の高さは14,130 feet(4307m)だ。日本だと北アルプスの乗鞍岳が車で一番高い地点まで登れる山として有名だそうだが、その標高約2700mと比べても、1.5倍以上の高さである。

ちなみにコロラド州第二の都市、コロラド・スプリングスの近くには、自動車のヒルクライムレース等で有名な、Pikes Peak(パイクスピーク)があり、こちらも未舗装路ながら、山頂直下の4300m地点まで車で登ることが出来る。Pikes Peak International Hillclimbや、それに参戦するSuzukiSportのサイトを見ていただければ、コロラド州の山の高さが伝わるかもしれない。

自分も毎年1回、Mt.Evansに登るのが恒例となっている。もちろん車で、だ。

頂上まで続く舗装の道路脇には、山羊やマーモットやチップモンク等がノンビリと生活している。中腹のカフェの窓際では、ハミングバードの群れが見事なホバリングを披露してくれる。4000mを越える山腹で、鷹が頻繁にソアリングしている場面を見かけることも追記しておこう。餌の分布が希薄であろう高高度で、ソアリングとは…。楽しみだけで飛ぶのは人類だけと思っていたのだが、そうではないようだ。

標高1600mのデンバー市街地が30℃を越える日でも、Mount Evans頂上の気温は10℃を下回る。日帰り避暑には最適だ。ただ、気楽に登れるが故に、ご老人達や呼吸器系が必ずしも健全でない人達もやって来てしまう。標高4300mともなれば、気圧は地上の6割しかない。見ていて気の毒だが、気分が悪くなりそこに座り込んでしまう場面もよく見かける。愛煙家にとっても、この標高の高さはなかなか辛いようだ。与圧なしの航空機の場合、14,000feet以上では補助酸素が常時必要とされるのだから、Mt.Evansの山頂では、いとも簡単に高山病になってしまう。一番の対処法は、速やかに下山することなのは言うまでも無い。車であればそれも簡単だ。

上で気圧の低さに関して触れたが、正にその高高度環境を狙って、仕事目的でやってくる人たちも居る。数年前のこと、そこには独VW社のエンブレムをつけた車が、後席にテスターと思しき機械を満載して、Mt.Evans付近でテスト走行をしていた。どうやらディーゼルエンジンの試作車両だったようで、なるほど、コモンレール技術などによってディーゼルエンジンが著しく進化したあの時期と一致している。欧州ではディーゼル車の市場シェアが非常に高いと聞いている。今年のルマン24時間レースでも、アウディのディーゼルエンジン搭載車が、初出場ながら 1st&3rd で勝利したことも記憶に新しい。

また山の話から、車の話に脱線してしまったが、夏のデンバーに来たなら、ぜひ一度は訪れて欲しいのが、Mt.Evansだ。

2006年06月24日

四半世紀近く前、オーストラリアでの話

1983年の春(北半球では秋)から84年の夏にかけて、オーストラリアに居たことがある。メルボルンから北に数時間ドライブした、ミューレー川岸にあるグライダー場に、曳航パイロットとして出向いたのが、本来の理由だった。

近くの村の広場には、何製の機体か素性の分らない(おそらく複数機の部品を使って創作した)グライダーが、彫刻作品のように展示されていた。何はともあれ休憩したくなり、午後も早かったせいか、誰も居ないひっそりした村のバーに入り、ビールで乾いた喉を潤したことも覚えている。グライダー場に到着すると、その日の教習を早めに切り上げ、歯科医に向おうとしていたグライダーの世界チャンピオンがいた。しかし、そのチャンピオンに出会って話をしたことより、滑空場のハンガー(格納庫)のサイズのあまりの大きさに、完全に圧倒されてしまったのを、今でも鮮明に思い出す。

その後は、米国の飛行機ラインセンスを、豪州のライセンスに切り替える為に要求されている、筆記試験の準備に追われる羽目となった。英語圏で共通した内容だろうから免許の書き換えも楽勝であろうと、到着後には予想していたのだが、用語の定義が全て違うことに現地で気付き、大慌てで勉強し直す必要があったのだ。

数日間の勉強ののち、メルボルンの航空局で受験し、無事に合格。書き換えは試験日のうちに完了して、一安心したのではあったが、曳航パイロットとして活動すると言う当初の目的は、その他の予測外の事情がいろいろとあって、早々に諦めざるを得ないことになった。なけなしの金で観光とソアリングとを楽しむという、観光客へと変身した訳ではあったのだが・・・。

その後、当初の目的を果たすことなく失意の旅に出て、ヴェナラワイケリーナロマインの各グライダー場を訊ねることにした。そのうちの一つ、ワイケリー滑空場に到着すると、そこの職員から日本人のビジターがまもなく到着することを知らされ、せっかくだからと村のバス停に出向くと、そこには若い日本人二人が、パックパックを背負って立っていた。その二人が1ヶ月後、一足先にアメリカに舞い戻ったTetsuを追っかけて、オーストラリアから直行で動力機ライセンスの上乗せ訓練の為に米国までやってくるとは、その時点では思いもよらなかったものだ。

そのバックパックを背負った二人、S君は自動車会社で、M君は世界を舞台に最先端加工技術を売り歩くビジネスマンとして、大いに活躍していると聞く。そのM氏(君と呼ぶのは卒業しなければ・・・)が先月、出張の途中にデンバーに立ち寄ってくれた。

ああ、あれから、もう23年か・・・・・・。

Time flys.

2006年06月15日

フライトレビュー

こんな質問を時々受けます。
「仕事が忙しく、前回アメリカで飛んでから、3年半も過ぎてしまいました。もう飛べないのでしょうか?」
それに対しTetsuは、
「アメリカでBFRつまりフライトレビューを受け、技量と知識の確認をすれば、大丈夫ですから、ご心配なく。」
と答えています。

あなたが取得したパイロットライセンスは、航空法違反などをして停止ないしは剥奪を受けなければ、一生涯有効です。その特権を行使し、機長として合法に飛ぶには、定期的な航空身体検査の更新と、一定期間の経験を満たすことが必要なのですが、それに加え当地アメリカでは、 BFR (Biennial Flight Review) と呼ばれる2年毎に実施される飛行技量再審査制度いわゆるフライトレビューをこなすことが要求されています。

フライトレビューは試験官との試験ではなく、CFIつまりフライトインストラクターとの再訓練、と言う意味合いです。インストラクターの裁量に任されてる面も多いのですが、フライトレビューの内容は、最少1時間の座学と最少1時間の飛行訓練から構成されます。

フライトレビューの座学においては、改正された航空法規の内容の熟知、頻繁に犯される航空法項目、空域定義の正確な理解、 AC (Advice Circular、法的な係わりの無い追加情報冊子) トピックなどの復習を通し、知識の再確認を行います。

フライトレビューにおける飛行訓練は、最低限、飛行技量が安全なレベルを保たれているか否かをチェックします。急旋回、失速、低速飛行、エマージェンシー、フード飛行(計器参照のみの飛行)、交信能力(自己宣言も含む)、そして、最も大切な「他機警戒能力」などがチェック項目です。

無事にフライトレビューを完了し、合格した事実はログブックに裏書され、次の2年間は再び立派なPIC(機長)です。ただし、他に乗客を乗せる場合には、さかのぼって一定期間の飛行経験が必須ですから、お忘れなく。

フライトレビューに関する詳しい内容は、AOPAPilot's Guide to the Flight Reviewを読むと良くわかると思います。またFAAのサイトには、PDF形式ですがリーフレットConducting an Effective Flight Reviewもありますので、よろしければご覧になってください。

また、最近よくある問い合わせは、フライトレビューを受けるのにもTSAの登録が必要かどうか、ということなのですが、現状(2006年6月1日)ではライセンスを持っている日本人が、アメリカで久しぶりに機長として飛ぼうと考えて、BFRを受けようとする場合には、TSAの登録は不要です。

しかしながら、頻繁に飛べなかった場合の技量低下は不可避です。"巧く飛べること"は安全運航と同義語です。乗客としてでも良いですから、滞空時間を増やすチャンスをお見逃しなく。尚、米国では飛行教官達が、航空局検査官や試験官のみならず、その殆どの任務を代行しています。

パイロット(特にペーパーパイロット)を再教育し、安全な運航を行えることを監視すると言う意味では、フライトレビューというのは素晴らしい制度だと思います。日本でも数年前より、自家用操縦士を対象に航空安全講習会が開かれるようになったようですね。講習会を通して知識を再確認するとともに、機会を見つけて技量を維持し、いつまでも安全に空を楽しみましょう。


2006年06月04日

湿度一桁の夏

皆さんは、体感温度が表示温度を下回る夏を体験したことがありますか?

昨日、つまり6月3日のデンバーは、 正午頃の外気温が34℃だったのですが、湿度が5%と久し振りの一桁台でした。

日本の夏とはまったく違う、とても爽やかな暑さのコロラドです。

2006年06月03日

ミクスチャーは混合気の空燃比を設定する

レシプロエンジン搭載の小型飛行機に乗ったことのない方のために、ごく簡単に説明させてもらえば、機内に乗り込んで操縦装置を眺めて眼に飛び込んでくるのが、黒いスロットルレバー(ノブ)の右隣にある真っ赤な目立つレバーだろう。赤く塗られているのはミクスチャーコントロールと言い、空気密度の変化(飛行高度の変化)に応じて、エンジンに送り込む空気と燃料の混合比(空燃比)を設定する為に装備されている。

エンジンに送り込む混合気の比率を調整すると言う意味で、スロットルとともに非常に重要な役割を持つミクスチャーコントロールなのだが、免許取得まで(或いは、取得後も)エンジン停止させる以外の目的で操作したことの無い人がいるのも、現実である。

コロラド州の西部と中部は海抜高度が高いので、海抜高度の低い訓練地と比較し、訓練内容で特に目立つ違いは、ミクスチャーの設定なのかもしれない。当地コロラドでは、エンジンのスタート直後から混合気を薄くしてやらないと、海抜高度の高さゆえの空気密度の低さにより、相対的に燃料の比率が高くなり、その結果として混合気が濃くなるので、スパークプラグがカブり気味になってしまう。アメリカの東部、南部や西海岸など、他州からやってきたパイロット達が、時々空港関係者を楽しませてくれる(?)エンターティナーと化すこともある。混合気の空燃比設定が教科書の知識としてあっても、実際にそれを体験したことが無い故に、混合気を薄くすること無しに離陸しようとするからだ。結果、エンジン不調で離陸断念。それを何回か繰り返した時点で、我々が彼らの再教育に駐機場まで出向くことが、今でも年に数回はある。

また、混合気は薄くすると共に、高高度からの帰還時には逆に濃くすることを頻繁に忘れがちでもあり、それは時にかなり危険な結果を招いてしまう。起き得る最悪のタイミングはゴーアラウンド時だろう。スロットルをフルにし、エンジンの最大出力を取り出そうとした瞬間に、混合気が薄すぎて瞬時にエンジンが停止してしまうという、まさに悪夢のような事態を招きかねないからだ。

自動車のように自動で混合気の空燃比が設定され、操縦者がそれを気にしないで飛行できるような新世代のエンジンも、小型機の世界では増えてきているようだが、現実的には、特に小型航空機の世界においては、伝統的な技術によるエンジンが圧倒的多数で使用されていて、そういったエンジンを理解して飛ぶことが、小型機のパイロットには必要だと考えているのだが、古い考えなのだろうか。

参考文献として、Lycoming-Textron社のサイトにあるEngine Operation Tipsを参照して欲しい。
Engine Operation Tips,“Experts” Are Everywhere to Help You / SSP 700A (pdf形式)
英文を読むのは面倒だと感じても、グラフはぜひとも見て欲しい。ベストパワーレンジやピークEGT(ベストエコノミー)、ピークEGTのリーン側の急激な燃焼温度低下や馬力低下が読み取れると思う。

間違って操作すればエンジンを止めてしまう恐怖感から、経験不足のパイロットは、ミクスチャーをイジって混合気の空燃比設定を変えたがらないようにも思うのだが、それは高高度を飛ぶパイロットだけでなく、通常の飛行時でも非常に重要な事項なのだ。

安全運航は正確な知識と実際の運用体験の蓄積から得られる。練習、練習、また練習と。

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