積乱雲と航空機
純白の積乱雲が、あたかもカリフラワーや綿菓子のように、モコモコと発達していくのを、頻繁に目撃することのできる季節がやってきた。 見つめていると眼が痛くなるようなコロラドの青空と、真っ白な積乱雲のコントラストは、とても美しい光景なのだが、その美しさとは裏腹に、空には危険も潜んでいる。人間の本能というのは不思議なもので、美しさを越えて恐怖を感じるものは、事実として危険なことも多い。積乱雲はその代表格なのだろう。
ここコロラド州では、積乱雲の雲頂が、対流上限高度である40,000フィートを超えるまでに達することも、少なからずある。北米大陸という広大な台地の、ほぼど真ん中であるコロラド州であり、もともとの標高の高さと空気の層の薄さが、北緯40度にありながら強烈な太陽光線を提供してくれる。それゆえ、対流も活発になり、赤道直下と見まごうばかりの、畏怖さえ感じさせる雄大な積乱雲を生み出すのだろうか。
積乱雲の底面が真っ黒く見えるのは、太陽光の透過がないことであり、その上空の対流層の厚さを示している。積乱雲の対流層の厚さは、帯電現象の活発さと同義語だから、積乱雲の雲底が真っ黒くなるのであるならば、雷雲の誕生を予期しなければならない。積乱雲の底面から、ヴァーガ(地上に達する前に蒸発して消滅してしまう降雨)が目撃されたら、積乱雲の降雨の中を稲妻が走る確立はかなり高いだろう。
積乱雲の特性は、教科書などからかなりを学ぶことはできるのだが、実際の場面で冷静な判断を保つためには、場数を踏んでいくのが正道なのかもしれない。小型機のパイロットは、積乱雲を下から見上げる場合が殆どなのであるが、大型機のパイロットは。積乱雲を目線で水平か、時には見下ろす場合もあるだろう。小型の航空機と大型の航空機では積乱雲に対しても、おのずから係わり具合が違ってくるわけだが、航空機にとって、積乱雲に対する基本的なスタンスは、大型も小型もあまり変わりはないはずだ。
音が出るのだが下の動画を見て欲しい。コロラド州デンバーの東南東におよそ1400kmほど離れた、テネシー州メンフィス付近で、2003年8月23日に雷をともなった積乱雲が空港付近を覆った時の様子だそうだ。
世界最大の航空貨物会社であるFedexの本拠地に、Fedexの貨物機が積乱雲を避けつつ殺到し、空港を積乱雲が覆ってからは慌てふためいている様子が良くわかる。大きな貨物機でさえこうなのだから、セスナのような小型機ではどうなってしまうか、想像はつくだろうか。
積乱雲に接近しても、どの程度までなら被雷せず乱流に巻き込まれず、安全に飛べるかという判断は、長年の経験から、正確になってくるように思うのだが、また一方でそれが落とし穴かもしれないとも思う。自然のしっぺ返しが待っているかもしれないのだから、ちっぽけな我々は謙虚に飛ばねばならないと、いつも自分自身に言い聞かせている。
恥ずかしながら積乱雲に係わる失敗談を披露しよう。ある時、雲からかなりの距離を保ったつもりで飛んでいると、突然、ガラガラと言う凄まじいドラム音と、豪雨に遭遇したかのような悪視界に陥ってしまった。それが小粒の雹の襲撃であったことを悟ったのは、暫く経って冷静を取り戻してからのことだった。しかもその雹のサイズが、僅か大豆ほどの大きさであったことを知ったは、地上に降り立ってからのことだった。もう少し大きな雹であったなら、機体に大きなダメージを受けていたかもしれないと考えると、ゾッとする経験だった。
積乱雲にともなう、かの有名な「マイクロバースト」に関しても、そのうち書いてみたいと思っている。マイクロバーストを伴うように、積乱雲は恐ろしいのだが、それ以上に美しさもある。空から眺め、その光景に畏怖を感じることが出来るのは、パイロットの特権なのだから、これからも謙虚に積乱雲と付き合って行こうと思う、初夏のコロラドだ。
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